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[Designer]

All The Way To Paris × Wool carpet / HOTTA CARPET:Story2
ていねいに、軽やかに

どう描き、どう組み合わせるか。50㎝×50㎝のタイルカーペットデザインのための最初のスケッチがATWTPから届いた。正方形のカーペットが1枚のキャンバスとなり、それぞれに描かれたのは、1~3本で表現された様々な「線」。この至ってシンプルなデザインが、縦/横、規則/無規則に組み合わされ、グラフィカルな色のパターンとともに表現されている。

「デザインプロセスの中でも最も大変だったのが、正方形の組み合わせ方にありました。1枚でも、何枚も組み合わせても成立するにはどうしたらよいか、まるでオーケストラの指揮者のように、少しずつチューニングしていくような作業でした」(ATWTP)

「最初のデザインスケッチを見て、『これをどうやって表現しようか』と、不安な気持ちになったのが率直な感想でした(笑)。WOOLTILEを作る織り機、アキスタイルは機械の特性上、デザイナーがイラストレーターで作ったグラフィックをドットで表現しなくてはならないいので、デザイナーの意図とずれてしまう可能性もあります。だから、デザイナーに僕らのものづくりを理解してもらうこと自体、とても難しいんですよね。でも、自分たちだけだったらこのようなデザインは生まれなかったですし、ATWTPの素晴らしい感性を、どう製品化し、そしてそれがどう評価されるのかというチャレンジが、とても楽しみでもありました」(堀田)

堀田さんをそう思わせた最初のスケッチ。カーペットに描かれた「線」をよく見ると、まっすぐではない。色も1色ではあるがムラのようなタッチが見られる。このハンドドローイングのような風合いを持たせたシンプルでいて奥行きのあるデザインこそ、彼女たちの狙いだった。

「シンプルで美しい線の中に、ハンドドローイングのように手仕事だからこそのあたたかみや個性がある。私たちが捉える日本の美意識を、このカーペットで表現したかったのです。そしてそれだけではなく、堀田カーペットが持つ高い技術もしっかりと伝えられるようなカーペットを目指しました。合成繊維製も多い中、ウールという天然素材にこだわり、高品質なカーペットを手がける堀田カーペットのフィロソフィや生産技術は素晴らしいです。人の手によるものづくりの美意識と、ハイテクな生産プロセス。その両方を叶えるプロダクトを作ることは、とてもチャレンジングなことですがワクワクしています」(ATWTP)

デザインを実現するための制作において、最初のプロセスは素材となる「ウールの糸」を作ること。ここで素材と色が決まってはじめて、原料の段取りがスタートする最初にして最も重要な行程だ。デザインや用途に対して最適なウール(素材)を選び実現したい色に染める「ポム」と呼ばれる糸見本を作り、それをベースに完成形をイメージしながら、最終的な素材を決める。糸を作る紡績工場の知見と堀田カーペットの経験による緻密な検証を経て、依頼側への提案となる。

今回ATWTPがリクエストしたカーペットの色はベージュ、オレンジ、そして濃淡2色のブルーの4色。手の平上にあるポムから、実際に床に敷き詰めるカーペットを想像し、色の濃淡を調整していった。そしてキーポイントであるハンドドローイングのような色ムラを表現するために、堀田カーペットが提案したのは2種類のウール糸を使うということ。糸の品種が違えば色の染まり方にも微差が出るため、目指すテクスチャーに近づけることができるのではないかという提案だった。

こうして両者が納得いく素材が決まると1色あたり156本の糸を準備し、実際の織りの行程へと進む。

WOOLTILEは50×50㎝のオリジナルの接着剤のついた基盤を熱板で溶かし、その溶けた接着剤に糸を1列ずつ植えていくという方法で作られている。1列あたり156本の糸を柄にあわせて選び、基盤に植え、その列を156回植えると1枚が完成する。156×156本、合計24,336本の糸で1枚のタイルカーペットが出来上がるのだ。今回は通常のWOOLTILEよりも太い糸を採用したため、カーペットが前後左右に膨らんだり、糸が絡まったりしないよう都度調整を重ねながら織る、アキスタイルを熟知した職工の技術力が重要な工程だ。その後、乾燥機にかけ接着剤を糸にしっかりと浸透させ、表面の糸を削りとり整えるシャーリング、滑り止め加工を経て完成へと到る。人の手で丁寧に検品が行われ、1本でも抜けがあるなどした場合は、手作業で補修が行われる。

「カーペットのデザインは糸のテクスチャーを変えたり、それによって色の見え方や表現も変わるので、2.5次元の世界なんです。グラフィックデザインは重要な要素ですが、平面的に考えるだけだと、うまく製品に落とし込むことができない。特にWOOLTILEはこの50㎝角を組み合わせて、デザインと組み合わせの面白さを伝えられるかというところが重要なので、自分たちのものづくりの本質を外すものは絶対に作りたくなかったんです」(堀田)。

「このカーペットには、従来にはない発想が詰まっています。私たちはこのWOOLTILEのために考えたデザインを、他の誰かが別の組み合わせで楽しむことで、また新たなパターンが生まれます。そうやってこのカーペットを通して、多くの人と互いに影響し合えるところがいいですよね」(ATWTP)

手仕事と機械仕事、その両方への決して妥協しないこだわりと探求、そして尊敬心。このシンプルなカーペットの中には実は緻密なプロセスが詰まっているが、遊び心が溢れた軽やかなデザインがそのストイックさを感じさせない。それこそがATWTPが目指した日本的な美意識の表現なのかもしれない。そしてこの完成を起点に、新しいWOOLTILEの可能性がこれから広がっていく。

>>Story3へ続く

All The Way To Paris

オール ザ ウェイ トゥ パリス

オール・ザ・ウェイ・トゥ・パリス(略称:ATWTP)– コペンハーゲンを拠点としてタニア・バイブとペトラ・オルッソン・ゲンズによって立ち上げられたグラフィックデザインスタジオ。デンマーク王立芸術アカデミーでグラフィックデザインを勉強していた二人は出会って間も無くスタジオを立ち上げ、現在では多国籍なメンバーによって構成されている。コンセプチュアルなデザイン性を得意とするATWTPは、プロジェクト規模に関わらず、ビジュアルアイデンティティ制作、イラスト、展示会などのグラフィック、美術館や博物館のカタログ制作、本、布物、インテリアなどの多岐にわたるデザインを行っている。

allthewaytoparis.com/

HOTTA CARPET

堀田カーペット

堀田カーペット - ウールのウィルトンカーペットを専門に製造するカーペットメーカー。1962年に大阪府泉市にて創業以来、「一番気持ちが良い床」をコンセプトに住宅・ホテル等のカーペットから、家庭用ラグ、DIYカーペットを展開。最も古い製法の一つであるウィルトン織りを通して、日本にもう一度カーペットの文化をつくることをビジョンとしている。キメが細かく質の高いカーペットが評価され、高級ホテルやラグジュアリーブランド、官公庁施設などの内装に関わってきた。

hdc.co.jp/

“Lines” Wool Carpet

Size:
50cm×50cm, Total Hight 15mm,Pile Hight 10mm

Material:
Base WOOL100%
Line (Semi freez WOOL80% NYLON20%)

Price:
¥5,500(in tax)