洞察に満ちた初回の会話を経てストックホルムに戻ったルーネは、今回デザインするプロダクトのアイデアを、テーブル、ベンチ、スツールで構成される家具へと落とし込んだ。 最初のスケッチは、高橋の道具、技術、そして哲学からインスピレーションを得て描かれた。そして、部屋と家具との間に生まれる対話を追求しながら、図面制作を行った。
デザインプロセスには当然課題も多い。テーブルとベンチについてはTOKYO CRAFT ROOMの部屋に合わせ、必然的にそのサイズは決まったものの、スツールの決定には難航したのだそう。そして、ルーネは日本の風呂椅子の文化に注目した。従来のスツールのサイズにはないものを今回のテーブルセットに求めていた中で、ルーネの目に止まったのは日本の木製の低い風呂椅子。そのプロポーションは理想的なものだった。
その他にも日常の生活道具の中からデザインの参考になったものが、日本のしゃもじだ。高橋が、広島にあるギャラリー兼レストラン「kantyukyo」のために作ったプロダクト一つにもしゃもじがあり、それは広島県にある宮島の伝統工芸品であるしゃもじをベースにしたものだった。そしてそれはスウェーデンでも馴染み深い、パンを窯入れする際に使う道具(ピール)にも通づるという。その凸状の滑らかな曲線は、今回のデザインに影響を与えた。
「ピールは、薄いけれど重量もありとても存在感があります。それをテーブルでも表現したかった。薄くて繊細なテーブルは、これまで多くのデザイナーが手がけてきたでしょう。今回はそれとは違う。薄いけれど頑丈なテーブルを目指しました」
「私たちの考えと、日本の伝統的な職人技や美意識を結びつけるようなデザインとなりました」とルーネは語る。様々な組み合わせや用途で使えるテーブルセットは、高橋が自身のものづくりを通してその魅力を伝えていきたいという広島産の栗の木から作られる。そして木の質感が失われないよう、透過性のポリウレタンをベースとしたコーティングで仕上げられる。
今回手がけた家具のユニークなフォルムを際立たせるのが、天板と足の接合(ほぞ継ぎ)のディテール。表面から覗かせる幅4mmほどの繊細な接合は非常に印象的だ。ゆるく重ねられているようでありながら、しっかりと接合されるよう綿密に設計されている。
「このテーブルを皆で囲むとき、このほぞ継ぎにぜひ注目してほしい。そこに気がつがなかったら単なる曲線的なテーブルだなんて思われてしまうかもしれないですよね。」とルーネは語る。
不可能かもしれないと思われた接合について、デザイナーの要望を実現するために、高橋は、彼の師匠の仕事を改めて見直しながら、試作を行なった。多種多様な曲線や、中央に向かって厚みを帯びる天板の形状への課題を解決しながら、繊細でありながら頑丈な接合部の構造を作り上げた。
「直線や平面がない、まるで人の体のようなテーブル。高橋さんは、そんな私たちのアイデアを三次元で実現してくれたのです」
>>Story3へ続く
Claesson Koivisto Rune
クラーソン・コイヴィスト・ルーネ
クラーソン・コイヴィスト・ルーネは1995年に、モーテン・クラーソン、エーロ・コイヴィスト、ウーラ・ルーネの3人によって設立されたスウェーデン・ストックホルムを拠点とするデザインスタジオ。
sasimonokagu takahashi
さしものかぐたかはし
指物師 高橋 雄二が、2010年より広島県の熊野町にてスタートした家具工房。 木の家具や小物のデザインから制作、販売までを一貫して行っており、現在は、スタッフと共に作るオリジナル製品や高橋個人が受注するオーダー家具を中心に制作を行っている。家具作りのほか、敷地内のイベントスペース tetoma では、暮らしにまつわる展示、お話会など各種イベントを行っている。
www.sasimonokagu-takahashi.com
“Hand” Table, bench and stool
Size:
W2400 D1050 H730mm
Material:
栗(広島産) / Chestnut in Hiroshima
Price:
Table ¥640,000
Bench ¥216,000
Stool ¥160,000(+tax / estimated price)