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[Designer]

Fleur van Dodewaard×Paper framing / Kyoshindo Inazaki [Story1]
時と国を経て、思考を巡らす

5つのプロジェクトを経て、TOKYO CRAFT ROOMの部屋に徐々に彩りが増してゆく。「この部屋で宿泊者が使用するもの」をベースにしながら、デザイナーと作り手のあらたな視点や技術をもって新しいクラフトを発信してきた本プロジェクト。今回のコラボレーションはよりいっそう豊かさが増すものとなりそうだ。オランダを拠点とするアーティスト、フラー・ファン・ドーデワードと、日本橋浜町を拠点とする表具師『経新堂稲崎』によるアートの制作がはじまった。

アーティスト、フルール・ヴァン・ドーデワードの作品づくりへのアプローチがおもしろい。写真、彫刻、絵画を交差しながら、木、紙、粘土、テープ、絵の具などの素材を用いて構築した作品を、最終的に写真という形で完成させる。モチーフとなるものや作品づくりにおけるインスピレーションは美術史から受けるものが多く、それらを探究し、独自の視点であらたな解釈をもつというプロセスを大切にしている。

「プロジェクトがはじまるといつも、イメージを集めることからスタートします。まずは与えられたプロジェクトの文脈をもとに、そしてそこから自由に連想しながらリサーチしていきます。ソースとなるものは美術書、インターネット上で見つけた画像、新聞、自分で集めたもの……あらゆるものです」

そんな彼女が今回TOKYO CRAFT ROOMのために制作するアート。オランダと日本の間で、どんなストーリーが生まれ紡がれていくだろうか。私たちが彼女に最初に伝えたことは2つ。ひとつはTOYKO CRAFT ROOMのコンセプト、そしてもうひとつは今回の作り手となる、“表具師”の存在だった。

表具とは、紙や布を糊を用いて張った、襖や障子、掛け軸や屏風、巻物、額装などのことであり、それらを仕立てたり修復する職人が表具師だ。そのルーツは中国にあり、遣唐使による仏教の伝来とともに日本に伝わり、経巻(経典を記した巻物)の装丁や仏画の装飾などから表具の歴史が始まったと言われている。奈良・平安時代に京都を中心に発達し、その後鎌倉・室町時代には装飾品としての掛け軸を仕立てるようになり、江戸時代には屏風や襖、障子の仕立てが表具師の仕事の中心となっていった。特に貴重な美術品や茶室の表具全般など日本の文化財が今日まで守られてきたのは、表具師の技術の存在が大きいだろう。

浜町ホテルから歩いて5分ほどの場所に工房を構える『経新堂 稲崎表具店』。江戸時代、天保年間から5代続く表具店で、入口にはその歴史を感じさせる「大経師(だいきょうじ)」の看板が掲げられていた。

「表具師はかつて経師と呼ばれていました。その中でも大経師というのは、朝廷に仕えていた表具師のことで、うちは江戸時代に大経師の称号をいただきました。名字を持てなかったこの時代に、名字帯刀を許されていたんですね。創業は日本橋で、現在の日本橋2丁目は元大工町といって、当時城に出入りしていた職人が住んでいるエリアでした。うちも70名ほど表具師を抱えていたそうです。東京で唯一大経師の称号を持っていたのではないいでしょうか。現在は修復が多いですね。裏方仕事なので手がけた仕事をなかなか言えないのですが、最近も著名な美術作家の作品や、重要文化財に指定されている寺院の障壁画の修復などを担当しました」
説明してくれたのは、今回のプロジェクトに参加する、6代目となる「経新堂 稲崎」の稲崎知伸さんだ。彼との出会いからさっそく、表具をはじめこの日本とのプロジェクト実施に向けてフラー・ファン・ドーデワードの自由な発想が飛び交う。

「私の作品は、単純な側面も持っています。技術や経験は必要ですが、制作プロセスはDIY的で難しくなく、日本のものづくりとは正反対。拾った木にペンキを塗って組み立てて、写真を撮るだけというアプローチもよくあります。でもその中で一番大切なことはアイデアです。非常に単純な形でありながら、その構造は複雑なリサーチやアイデアから生まれているのです」

「このプロジェクトの基本的な文脈は、表具の技術を使ったアート、日本とオランダの関係、物理的な距離、TOYKO CRAFT ROOMの建築、私自身の作品から成っています。そして私は、いつも見ている美術史の作品の中から、以前出会った日本の美術作品を思い出しました。例えば、私が大好きな如拙の「瓢鮎図」。それはひょうたんでナマズを抑えるという禅宗の『公案』の実践を改めて思い起こさせるものでした。この修行は、私の仕事、そして人生において身近に感じられるものです。禅問答のように、質問に対して延々と答えを出し続けるという過程は、心を鍛えるという意味で、私の中ではアート制作に近いと思っています」

「”京表具”と”江戸表具”というように、その土地で発展した表具によって表現の違いがあります。京表具は寺院のための経典など色のない”書”を主に手がけてきたため、金を施すなど煌びやかな装飾が多く見られます。その一方で江戸表具は、浮世絵文化の中で発展したので、絵を引き立たせるためのシンプルで粋な表具が求められました。オランダで考えられたアイデアを日本の技術で実現する、おもしろい試みです」

約150年前から繋いできた技術と現代のあたらしい感性が、オランダと日本を通じていま、生まれようとしている。時代も距離も超えて重なる、未知なるコンセプトの具現化に向けた対話は、はじまったばかり。

Story2へと続く

Fleur van Dodewaard

フラー・ファン・ドーデワード

1983年オランダ生まれ。アムステルダムを拠点に活動するビジュアルアーティスト。アムステルダム大学で演劇を、ハーグの王立芸術アカデミーでファインアートを学び、その後リートフェルト・アカデミーにてファインアートと写真を学ぶ。彼女の作品は、日本、ロシア、オーストラリア、アメリカなど、世界各地の展覧会で展示されており、オランダのモンドリアンファンデーションのよりEstablished Artist Stipendを受けている。フラー・ファン・ドーデワードの活動は、写真、彫刻、絵画が交差します。これらのメディアの特性や美術史、形式のリサーチを通して、新たなアートの視点をわたしたちにもたらす。

www.fleurvandodewaard.com/

Kyoshindo Inazaki

経新堂稲崎

江戸天保年間より日本橋で5代続く大経師の称号を持つ表具店。表装、額装、屏風、襖、壁装など表具全般を手掛けており、世襲技術に独創を加えることをはじめ、美術・工芸品の保存修復を主に、意匠の製作も行う。

www.kyoushindo.com/

“GRASS IN THE WIND” ART

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Size:
W4500 D330 mm

Material:
和紙にインクジェットプリント、塗装した杉

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