HAMACHO HOTELのすべての客室に設置されるカップが、このTOKYO CRAFT ROOMから生まれた。スウェーデンのデザイナー、インゲヤード・ローマンと有田焼の老舗、香蘭社との新たなプロジェクト。今回2回目の協働となる両者がチャレンジする新たな「飲むための器」とは。
デザイナー インゲヤード・ローマンにとって、リサーチは継続的に行なわれているプロセスであり、その広範囲かつ厖大な積み重ねは60年ほどにも渡る。「私がしていることのすべてが、自分自身の一部になる」そう言って、彼女は絶えず好奇心を持ち、リサーチを続けている。インゲヤードのデザインはどれもシンプルであるが、彼女がこれまで経験したすべての物事からインスパイアされているのだ。
「メーカーや作り手との協業は学びを得る機会。クリエイティブに携わる人々はきっと皆、日々自分を成長させたいと思っているでしょう。いつもと違う視点や理解を深めることが、デザインのための新たなインプットとなると思っています」
佐賀県有田を拠点とする磁器メーカー、香蘭社の創業は1875年。日本初の磁器製碍子の開発にはじまり、美術陶磁器やファインセラミックスなど高い技術と品質を誇る。2016年の有田焼創業400年事業で誕生した新ブランド「2016/」のプロジェクトでは、インゲヤードのデザインによるティーセットを開発した。その最初のプロジェクトから約2年。両者の強いパートナーシップがTOKYO CRAFT ROOMをきっかけに次なるストーリーを紡ぎ出す。彼らは有田で再会を果たした。
「型の製造から釉薬の開発まで、香蘭社のスペシャリストたちの高い知識、そして皆さんが同じ目標に向かって働く姿が印象的でした」とインゲヤードは語る。
香蘭社の工場を訪れ、作業場を見て回るごとにインゲヤードの好奇心は高まっていく。
「制作のプロセスや使う道具などを見聞きしていくたびに、いつも新しい発見があります」と彼女は笑みを浮かべる。見本サンプルを広げて釉薬に関してたずねたり、絵付けの職人が細い筆で描く繊細な線の美しさを興味深く見つめたり。工場内で製造工程を確認しながら、その過程にあるそこでしか見られないひとつひとつのシーンに目を見張っている。
インゲヤードがこれまでデザインした食器が並べられたテーブルを囲み、TOKYO CRAFT ROOMのためのプロダクトミーティングが行われた。そして、互いの見解とアイデアを重ねていくうちに、吹きガラスの存在がフォーカスされた。スウェーデンの老舗ガラスメーカー「Skruf(スクルフ)」のためにデザインしたシリーズ「Bellman(ベルマン)」だ。これは熟練したガラス職人との綿密な協働によって生まれたもので、インゲヤードはそのグラスを手に取り、その素材感や、シリーズとして一貫性を持たせながらハンドメイドのフォルムを持つプロダクトをメーカーが作り続けているということについて説明する。このベルマングラスのアイデアから、彼女はハンドメイドのカップを有田焼で作るという提案をTOKYO CRAFT ROOMに投げかけたのだった。
型を使わずに作る。それは完璧に仕上げられた型を使い、均一なプロダクトを作っている香蘭社にとって、「ハンドメイド」というインゲヤードの提案はこれまでにない大きなチャレンジであり、そしてその実現のためには多くの課題が浮かびあがる。自身もろくろを引き、陶芸家としての顔も持つインゲヤード。ここ有田でも同様に、彼女のデザインを、一点一点形作ることができる作り手を求め、香蘭社とともにさらに対話を続ける。予定にはなかったリサーチに加え、ここで導き出す答えよりも、多くの問いが生まれたが、プロジェクトはまだはじまったばかり。有田の地に根付く知識や経験という協力を得ながら完成までのプロセスを重ねていく。
>>Story2へ続く
Ingegerd Råman
インゲヤード・ローマン
スウェーデン生まれ。シンプルで流行に流されないデザインを生み出す、スウェーデンで現在最も優れたガラス・陶器デザイナーの1人。控えめだが暖かくやわらかな彼女の作品は、喜びや美しさに溢れ、「そのものが使われて初めて自分のデザインの価値が生まれる」という姿勢を長きにわたり貫いている。多機能であることは彼女のデザインにおいて大きな役割を果たしていて、ばらばらのものがしばしば一つになったり、さまざまな組み合わせで再構成される。Johanfors GlassやSkruf、Orreforsといったスウェーデン国内のブランドを中心にデザインを提供する他、ストックホルム国立美術館、コーニングガラス美術館、東京国立近代美術館 工芸館などで展示を行い、国際的なデザインアワードを数多く受賞している。
Koransha Co. Ltd
株式会社 香蘭社
1875年、深川栄左衛門ら4名の有志により、海外への美術陶磁器の輸出を目的とする製造・販売会社として合本組織香蘭社設立。1879年に解散、深川栄左衛門の単独経営として香蘭合名会社(現・香蘭社)を設立。会社設立に先立つ1870年、日本初の磁器製碍子の開発に成功、東京~長崎間の電信線架設に採用され日本の近代化に大きく貢献。 現在の経営の三本柱は美術陶磁器、電気用碍子、ファインセラミックス。 自社のプリント技術を持ち、NCモデリングマシンでの石膏型制作、カラー釉の掛け分け、高い品質管理基準が技術の特徴である。
“Mano’S” Tea cup
Size:
Φ90 H85mm
Material:
Black, Celadon green / 黒、青磁の2色
磁器、黒色釉薬と青磁色釉薬 / Porcelain, Black glaze and Celadon glaze
Price:
¥4,200 / Celadon green ¥4,600(+tax)