EN / JP / CN

[Designer]

Ingegerd Råman × Porcelain / Koransha:Story2
手を焦点に

香蘭社の広大な工場の敷地の一角にある、「型」専用の大きな倉庫。そこにはさまざまな形や大きさの石膏型が保管されており、3Dプリンターで正確かつスムーズにデザインを作成することができる。香蘭社のように、型を使った磁器を主とするメーカーにとって、型とは形成のためのレシピのような存在。しかしそれとは対象的に、今回TOKYO CRAFT ROOMのために作るカップにおけるインゲヤードのデザインコンセプトは、「手」で作るということ。そうでありながら、一貫性を持ったフォルムと持続性を保つことを目指しているが、完全な複製を求めるわけではない。人の手で作り続けていくと当然、カップのひとつひとつに個性が生まれる。その個性の現れこそが、デザイナーとメーカーが積み重ねたパートナーシップを証明するのだ。

インゲヤードがこの旅でリサーチした中で得たもっとも重要なこととは、新たにはじまった香蘭社との協業の基盤とフィロソフィの確立だった。そして「手」で作るという提案に対し、次なるミッションが加わった。それは地元有田の職人がインゲヤードのデザインをもとに、ろくろを引き、カップを成形するということ。このプロセスを経て、香蘭社によって釉薬がかけられ、焼き入れまでが行われる。

デザインプロセスは「飲むための器」のスケッチから始まった。持ち手がなく、インゲヤードが描いたのは、ほんのわずかに飲み口へと広がったフォルムのカップ。世界中にある茶文化には、それぞれの習慣や伝統などのルールがあり、時に深く複雑だ。しかしこのカップのデザインは「飲み物を飲む」というシンプルな行為のみに重きをおきスケッチした。

「ティーセットはフォーマルなものなので、より丹念に作りたいと思いました。手で作られたカップは、その人の感覚がすべて。図面だけから生まれるようなものではないのです」とインゲヤードは語る。

そうして職人のもとに届いたのは、インゲヤードの最初のスケッチと、2017年に彼女が木村硝子のためにデザインしたグラス。このグラスをフォルムの参考サンプルにしながら、プロトタイプをつくり、カップの開発がはじまった。初期段階では、飲み口が厚く角ばっていたが、より薄く軽くするために土の量を減らし、飲み口に丸みをもたせるなど、徐々にアップデートを繰り返しデザインを洗練させていく。上底のつくりの高台にし、細部の改良を重ね最終的なプロポーションが定まっていく。

「協業する際、最初はそれぞれがの理解が異なることがあります。同じ言葉でも捉え方が違うこともある。デザイナーとメーカーの間で共通の言語を見つけるということが常に大切なのです」

カップの形成とともに、香蘭社は今回のカップのために釉薬を開発した。インゲヤードが訪問した際に、彼女の目を引いた青磁に加え、つやのある黒が彼女独自のレシピをもとに作られました。インゲヤードは、手づくりと感じられるフォルムをキープできる釉薬をリクエストした。釉薬の開発をはじめ、これまでにない新たなデザインプロセスは、シンプルなコンセプトでありながら、それを追求し深めていくことを通して完成へと導びかれていった。

>>Story3に続く

Ingegerd Råman

インゲヤード・ローマン

スウェーデン生まれ。シンプルで流行に流されないデザインを生み出す、スウェーデンで現在最も優れたガラス・陶器デザイナーの1人。控えめだが暖かくやわらかな彼女の作品は、喜びや美しさに溢れ、「そのものが使われて初めて自分のデザインの価値が生まれる」という姿勢を長きにわたり貫いている。多機能であることは彼女のデザインにおいて大きな役割を果たしていて、ばらばらのものがしばしば一つになったり、さまざまな組み合わせで再構成される。Johanfors GlassやSkruf、Orreforsといったスウェーデン国内のブランドを中心にデザインを提供する他、ストックホルム国立美術館、コーニングガラス美術館、東京国立近代美術館 工芸館などで展示を行い、国際的なデザインアワードを数多く受賞している。

Koransha Co. Ltd

株式会社 香蘭社

1875年、深川栄左衛門ら4名の有志により、海外への美術陶磁器の輸出を目的とする製造・販売会社として合本組織香蘭社設立。1879年に解散、深川栄左衛門の単独経営として香蘭合名会社(現・香蘭社)を設立。会社設立に先立つ1870年、日本初の磁器製碍子の開発に成功、東京~長崎間の電信線架設に採用され日本の近代化に大きく貢献。 現在の経営の三本柱は美術陶磁器、電気用碍子、ファインセラミックス。 自社のプリント技術を持ち、NCモデリングマシンでの石膏型制作、カラー釉の掛け分け、高い品質管理基準が技術の特徴である。

www.koransha.co.jp

“Mano’S” Tea cup

Size:
Φ90 H85mm

Material:
Black, Celadon green / 黒、青磁の2色

Price:
¥4,200 / Celadon green ¥4,600(+tax)