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[Designer]

Ingegerd Råman × Porcelain / Koransha:Story3
シンプルの追求

インゲヤード・ローマンと香蘭社によって完成したカップ「Mano’S」は、2018年2月にオープンしたHAMACHO HOTELに170あるすべての客室に、青磁と黒2色のペアで設置されている。「Mano」とはスペイン語で「手」という意味。このカップは新たなパートナーシップによる集大成であり、香蘭社だけではない有田の職人との共同生産という、歴史ある窯元にはこれまでない取り組みとなった。

「有田焼は伝統的に、削って形を仕上げる方法を取ってきました。それが磁器の凛としたフォルムを保ってきたと思います。それが良い、悪いということではなく、フリーハンドでの制作へのアプローチが新鮮なものだったのです」と香蘭社の工場長を務める森啓輔氏は語る。今回のコラボレーションを成功させるためには、新しい考え方を受け入れること、そして新しいアプローチを実現するためにチャレンジを乗り越えることが必要だったのだ。例えば品質管理。1点ずつ風合いが違うということは手作りの魅力だが、それゆえに新しい管理基準や条件を作らなくてはならなかったことも、今回のチャレンジのひとつだった。

スケッチのブラッシュアップを繰り返しながら開発が進むデザインプロセス同様に、そのデザインを形にする制作段階においても、段階を重ねるごとに進歩が見られた。

「作り続けていくうちに、カップのフォルムやサイズがだんだん自分の体に浸透していって、カップを通してインゲヤードと対話ができたように思います」今回ろくろを引いた職人のひとり、藤巻製陶の藤本浩輔氏は語る。

一つひとつのカップに、デザインを解釈するために作り手たちがたどった軌跡が反映されている。そしてその手作りのフォルムの実現のためには、オリジナルの釉薬の開発というプロセスがある。香蘭社の技術・品証部課長の岸川善行氏が釉薬の開発を振り返る。

「この青磁釉は、指先が作る器表面の細かなろくろ目によって色の濃淡が変わる透明な釉薬で、黒釉は窯の中での積み位置やその日の温度や湿度、気圧によって少しずつ違った表情に焼きあがる繊細な釉薬です。この表情の違いもろくろ目の指跡も”個性”とするインゲヤードの狙いの延長線上にあると理解し、製作しました」

デザインから生産までを通して繰り返し行われた微調整や決定事項が、完成したカップのディテールに集約されている。そしてそこには、自分がデザインしたプロダクトを喜んで使ってほしいという使う人に対する想いが表れている。

「私のデザインはシンプルです。シンプルでありながら、手で持ったときや口に触れたときに心地よいと感じてもらえるような、どこか温かみが感じられて、ちょっと特別なものでありたいと思っています」

シンプルでありながら独自のこだわりを持ち、機能的なデザインでありながら遊びごころも忘れない。それがインゲヤードのカップの魅力なのだろう。香蘭社とのコラボレーションの新たなチャプターがまたひとつ完結しようとしているいま、彼女と有田の作り手との対話はこれからも続いていく。

>>Story1、Story2を読む

Ingegerd Råman

インゲヤード・ローマン

スウェーデン生まれ。シンプルで流行に流されないデザインを生み出す、スウェーデンで現在最も優れたガラス・陶器デザイナーの1人。控えめだが暖かくやわらかな彼女の作品は、喜びや美しさに溢れ、「そのものが使われて初めて自分のデザインの価値が生まれる」という姿勢を長きにわたり貫いている。多機能であることは彼女のデザインにおいて大きな役割を果たしていて、ばらばらのものがしばしば一つになったり、さまざまな組み合わせで再構成される。Johanfors GlassやSkruf、Orreforsといったスウェーデン国内のブランドを中心にデザインを提供する他、ストックホルム国立美術館、コーニングガラス美術館、東京国立近代美術館 工芸館などで展示を行い、国際的なデザインアワードを数多く受賞している。

Koransha Co. Ltd

株式会社 香蘭社

1875年、深川栄左衛門ら4名の有志により、海外への美術陶磁器の輸出を目的とする製造・販売会社として合本組織香蘭社設立。1879年に解散、深川栄左衛門の単独経営として香蘭合名会社(現・香蘭社)を設立。会社設立に先立つ1870年、日本初の磁器製碍子の開発に成功、東京~長崎間の電信線架設に採用され日本の近代化に大きく貢献。 現在の経営の三本柱は美術陶磁器、電気用碍子、ファインセラミックス。 自社のプリント技術を持ち、NCモデリングマシンでの石膏型制作、カラー釉の掛け分け、高い品質管理基準が技術の特徴である。

www.koransha.co.jp

“Mano’S” Tea cup

Size:
Φ90 H85mm

Material:
磁器、黒色釉薬と青磁色釉薬 / Porcelain, Black glaze and Celadon glaze

Price:
¥4,200 / Celadon green ¥4,600(+tax)