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[Designer]

Wataru Kumano × Mirror / Kitajima Shibori Seisakusho:Story1
あたらしいアプローチを求めて

「素材と技術の特徴を活かし、できるだけ作る人が作りやすいものを目指しました」と語る、デザイナーの熊野亘さん。それはいわば「究極のシンプル」。そこにデザインがどう作用するのだろうか。その裏側にある考え抜かれたフィロソフィーやプロセスは、私たちの固定観念も覆すような力強い存在感を持つだろう。そんな期待を寄せる5回目のTOKYO CRAFT ROOMのプロジェクトがスタートした。本プロジェクトのR&Dとして、これまでデザイナーとメーカーの間に立ちプロダクト開発に携わってきた彼が、今回はデザイナーとしてプロダクトを発表する。

今回熊野さんが手がけるのは「鏡」のデザイン。その中でも全身が映る、姿見だ。そしてさらに今回もうひとつ挙げられるミッションに、「東京のものづくり」というキーワードがある。これまで日本各地の職人、メーカーと協働してきた本プロジェクトだが、あたらしいクラフトの発信地としてだけではなく、作り手の技術としての「東京」にもフォーカスするチャレンジとなる。「この一室のための鏡を、東京で作る」。その実現に向けたデザインインスピレーションをたずねてみる。

ヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)大学院を卒業後、日本にて「Jasper Morrison Tokyo Studio」のアシスタントデザイナーを務めるかたわら自身のデザインオフィス設立し、国内外のインテリア、家具、プロダクトデザイン、そしてプロジェクトマネジメントも手がける熊野さん。国境を超えたフィールドと視点で活動し続ける彼だからこそ注目する、東京のクラフトへの想いがあった。

「僕は東京都大田区に生まれました。大田区は町工場がたくさんあるものづくりの街でもあり、友達には、家族が工場の仕事に携わっている人もたくさんいました。今回のプロジェクトが、東京の作り手にフォーカスすることになったとき、自分が生まれた大田区のものづくりの技術で何かできないかと思って、リサーチをはじめました」

約3,500もの工場があり「ものづくりのまち」としても知られる東京都大田区。特に「削る」「磨く」「形成する」といった金属加工を行う工場に特化しており、世界に誇る技術がこの地に多数集まっている。その中で熊野さんは「ヘラ絞り」の高い技術を持つ『北嶋絞製作所』に注目した。

ヘラ絞りとは「塑性」という、金属に力を加えたときに変形したままになる性質を利用した、金属を伸ばして加工する技術のひとつ。アルミ、鉄、ステンレス、チタンなどの金属材料を円盤状もしくは円筒状に加工したものを、専用機械に金型と固定して回転させ、「ヘラ」と呼ばれる専門の工具を使って成形する。金型一つと金属板一枚で加工できるため、コスト、時間ともに削減でき、切断もしないので強度も高いことが特徴的な技術で、その歴史は中世ヨーロッパ時代にも遡ると言われている。

1947年の創立以来、一貫して絞り部品加工を専門に手掛ける北嶋絞製作所。特にへら絞り加工においては、長年のノウハウと常に高度な職人技術を誇り、直径数ミリの部品から、4メートルのパラボラアンテナ、ロケットの先端部品まで、多種多様な製品の製造を手掛けている。

提供:北嶋絞製作所

「鏡というプロダクトは、サイズやフレームのデザインでしか違いを出せないという印象を持っていました。でもだからこそ、考え方次第でいろんなデザインの可能性があるのではないかと思っていたんです。平面的ではなく、何か立体的な“鏡のかたまり”のような、オブジェのような存在感のある鏡ができないかと考えていくうちに、ヘラ絞りの技術にたどり着きました。僕は、木の家具を手がけることが多いですが、その際いつも、素材の特徴や、いかに作る人が作りやすいか、ということを考えてデザインしています。だから今回の鏡も、素材の持つ特性と技術をいかにシンプルに引出させるかということに注力してデザインしたいと思ったんです」

自身のルーツに立ち戻りながら、これまでにはなかった発想からはじまる「ヘラ絞りで作る鏡」。剥き出しの素材と技術から生まれるプロダクトは、あたらしいデザインアプローチの提案にもなりそうだ。

>>Story2へ続く

Wataru Kumano

熊野 亘

プロダクトデザイナー。2001-08年にフィンランドへ留学、ヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)大学院を卒業後帰国、2008年よりJasper Morrison Tokyo Studio代表を務める傍ら、2011年にデザインオフィス” kumano “を設立し、木工デザインを中心に、国内外のインテリア、家具、プロダクトデザインやプロジェクトマネージメントを手掛けている。2021年より、武蔵野美術大学准教授に就任。

www.watarukumano.jp/

Kitajima Shibori Seisakusho

北嶋絞製作所

1947年創業した東京・大田区にある、各種金属のヘラ絞り部品加工を専門とする製作所。少数手作りから自動絞り、プレス成形による量産品にいたるまで、数多くの生産を手掛けている。特殊金属のヘラ絞り加工を得意とし、最先端の設備と70年余年積み重ねてきたノウハウをもって、人工衛星機器部品から航空機、半導体装置やモニュメントのような単品加工まで、大きさや種類も多岐にわたる。

www.kitajimashibori.co.jp/

“bead” Mirror

Size:
φ800mm

Material:
Stainless steel

Price:
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