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Fleur van Dodewaard×Paper framing / Kyoshindo Inazaki [Story2] デザインと技術。両ピースが揃った瞬間

デザインアイデアと技術の提案の交換がはじまった。オランダを拠点とするアーティスト、フラー・ファン・ドーデワードと、日本橋浜町を拠点とする表具師『経新堂稲崎』によるアートの制作。渡航が憚られ、メールやオンラインミーティングでしかコミュニケーションが取れない状況下の中で、互いのチャレンジが少しずつ形になっていった。

「これまでTOKYO CRAFT ROOMが手掛けたきたプロダクトは、機能を持ったアイテムでしたが、私は言わばいかに実用性がないものを作るかというアートの領域で活動しています。毎回取り組むテーマによって違うアプローチで、どんな形になり得るかということが興味深いんです」とドーデワードは言う。

写真、彫刻、絵画。ドーデワードの作品づくりの軸となる3つの要素だ。そこをベースに、昔の絵画、日本の様式美など、今回のプロジェクトに向けて彼女にとって未知の世界をどんどん掘り下げていった。そして『経新堂稲崎』の手仕事への共感についてもリサーチも深めていき、作品が固まっていった。

初期のスケッチの一部。カラフルに色づけた木片の写真を1枚ずつプリントにし、それを横につなぎ合わせるというもの。

そして彼女が提案したのは、大きさの違う9本の木の棒にペイントを施したものを1本ずつ写真に収め、1枚ずつ和紙にプリントしたものをつなぎ合わせるというもの。横長の掛け軸のようなイメージだが、その長さは4.5mにもなる。

「表具は特徴として、紙に関連したフラットな表現が多く、それは私自身の写真による彫刻作品とも関連します。それで巻物ようなフラットな彫刻、つまり長くて水平なアートを壁に設置しようと考えました」

写真に収めたカラフルな木の棒は、彼女の父親の古い家の作業場や、路上にあるゴミ箱などさまざまな場所から長年集めたきたもので、種類もサイズもすべて違う。身のまわりにあるものを使って、そこに新しい息吹を吹き込むことも、ドーデワードがこれまで続けてきたアプローチだ。

作品のプランが固まってきた中で、ここに表具の技術がどう活かされるのか、稲崎さんとの対話が続く。

「9つのパーツに分けて、ひとつにつなげたいという最初のコンセプトを受けて、4.5mもの長さの作品をどうつなぎ合わせるか、そしてどうやってTOKYO CRAFT ROOKMに設置するのか。客室なので安全に取り付けなくてはならないことも考慮して、やりとりを重ねました。最初はパネルに紙を貼って展示をするのがベストではないかという提案をしたのですが、”実際に巻けるものにしたい”というようなすごい発想も出てきて(笑)、キャッチボールを続けながら、最終プランに至りました」と稲崎さん。

ドーデワードから届いた”巻物”のイメージ。

そしてドーデワードがオランダで制作した9枚のプリントを1枚につなぎ合わせ、プリントとプリントの間に木片を貼って補強し、展示するプランに行き着いた。この木片の存在も、作品を完成させる最終的な決め手となった。当初はプリントの裏側にあくまで添え木として木を貼っていくプランだったが、最終的にはそれを前面に出すことになった。その判断をドーデワードは振り返る。

「作品づくりの際は、即興性を大事にしているので、本来だと実際にスタジオで道具や材料を見て、触れて、その中で試行錯誤しながら、生み出していくものですが、今回はそれができず、思いついたアイデアがあっても、ひとつひとつを時間をかけて協議をしなくてはなりませんでした。本当にコミュニケーションの大変さを痛感しました。プロダクトデザインだともっと緻密に計算して決めていくものですが、私のアートの場合は、もっと本能的に反映していくものなのです。だからこそこの通常は裏に入れておく木片を表に出したことが大きな分岐点でした。稲崎さんの職人技とわたしのデザイン合致し、ピースがはまった瞬間のように思えたんです。作品がようやく完成しました」

このような判断を稲崎さんも興味深く感じている。

「表具師は裏方的存在であるので、どんな大作を手掛けても名前が前に出ることはほとんどありません。裏に入れる予定だったこの木がこうして前へ出るという逆の発想は、表具の技術におすみつきをいただいたようで嬉しくも思いました」

時間や距離の制約が、改めてアートとの向き合い方や価値を気づかせてくれたかのように感じられる今回の制作プロセス。慣れない環境の中、写真やビデオ、テキストなどの資料を携えた対話を重ねれば重ねるほど、どんどん作品へのインスピレーションが高まっていったことも価値ある体験となった。

Story3へと続く

Fleur van Dodewaard

フラー・ファン・ドーデワード

1983年オランダ生まれ。アムステルダムを拠点に活動するビジュアルアーティスト。アムステルダム大学で演劇を、ハーグの王立芸術アカデミーでファインアートを学び、その後リートフェルト・アカデミーにてファインアートと写真を学ぶ。彼女の作品は、日本、ロシア、オーストラリア、アメリカなど、世界各地の展覧会で展示されており、オランダのモンドリアンファンデーションのよりEstablished Artist Stipendを受けている。フラー・ファン・ドーデワードの活動は、写真、彫刻、絵画が交差します。これらのメディアの特性や美術史、形式のリサーチを通して、新たなアートの視点をわたしたちにもたらす。

www.fleurvandodewaard.com/

Kyoshindo Inazaki

経新堂稲崎

江戸天保年間より日本橋で5代続く大経師の称号を持つ表具店。表装、額装、屏風、襖、壁装など表具全般を手掛けており、世襲技術に独創を加えることをはじめ、美術・工芸品の保存修復を主に、意匠の製作も行う。

www.kyoushindo.com/

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