7回目となるTOKYO CRAFT ROOMのプロジェクトは、初めての3社協働。デザイナーに倉本仁さんを迎え、北海道を拠点におく2つのメーカーが参加。ひとつは旭川市の木製家具メーカー〈カンディハウス〉、そしてもうひとつは砂川市の皮革製品、馬具用品メーカー〈ソメスサドル〉。これまでもデザイナーとメーカー、そしてメーカー同士でも協働を重ねてきた彼らが今回、TOKYO CRAFT ROOMのプロジェクトを通して一堂に会し、ものづくりへの対話がはじまった。キーワードは、「端材」へのあたらしい解釈だ。
木と革。2つのものづくりが今、向き合うもの
倉本さんの呼びかけから、カンディハウスとソメスサドルの2社の参加が決まった今回のプロジェクト。家具、家電製品、アイウェアから自動車まで、国内外で多彩なジャンルのデザイン開発に携わり、数々のデザインアウォードを受賞してきた倉本さん自身も、このような2社のメーカーとの協働は初めてだという(2022年時点)。そのきっかけは、兼ねてから親交のあるこの2つのメーカーが互いに抱えてきた課題について相談を受けたことだった。
「カンディハウスとソメスサドルは、”木”と”革”で業界は違えど、北海道の旭川とその隣の砂川という近隣のメーカーの繋がりもあって元々親交があり、実際にソメスサドルの革をカンディハウスの椅子の張地にするといったコラボレーションもおこなっていました。その中で、両社ともに製品を作るときにどうしても出てしまう”端材”について、お互いに”どう扱っていますか? 何かいいことができないだろうか?”という話があり、『端材に新たな価値を与えるようなデザインを考えてくれないだろうか』という相談がありました。僕がそのことを聞いたのがちょうどTOKYO CRAFT ROOMのプロジェクトがはじまるタイミングだったこともあり、インテリアともつなげて一緒に考えられないかと、両社に声をかけさせてもらいました。一番の目的は両社の持つ”端材”。そしてこれまでのTOKYO CRAFT ROOMはデザイナーと作家や作り手の1対1の取り組みだったと思うので、今回この2つの会社のキャラクターが入ることは、面白いスパイスになるんじゃないかなと思ったんです」


倉本さんのこの提案に、両者が賛同。すぐにプロジェクトチームが結成され、改めてそれぞれの素材と端材についてのリサーチがはじまった。素材を最大限活用することや、業界の課題を解決することに直結するアプローチは、これまでのTOKYO CRAFT ROOMのプロジェクトでも初のテーマとなる。ものづくりに関わらず、現代においていまやスタンダードな考え方は、「クラフト」というコンセプトからどのように昇華するのだろうか。
天然素材が持つ表情を、最大限に伝えたい
倉本さんに同行し、カンディハウスのファクトリーへ。日本を代表する木製家具メーカーであり、家具木工産地である旭川を牽引する存在でもあるカンディハウスとは、「EIGHT」や「ONE」などのデザイン開発において協働歴があり、ファクトリーにも何度も足を運んでいたが、今回まずはどのような過程で、どのくらいの端材が出るのかということに重点をおきながら、視察をおこなった。


基本的に木製家具づくりで出る端材は、最終的にはファクトリーの暖房や乾燥室のための燃料として活用されるので、無駄になることはない。しかし、同じ規格の家具を作れば作るほど、それと同じ形と量の端材が発生する。中にはユニークな形状のものや、大きな家具には向かないが、小物であればまだまだ活用できそうなものも。倉本さんはそういった点にも留意し、各セクションに置かれている端材のコンテナの中にも目を向ける。

続いて、砂川に移動しソメスサドルのファクトリーへ。同社は、宮内庁御用達の馬具を手がける他、乗馬と競馬両方の馬具を作っている世界でも数少ないファクトリーだ。馬具づくりの高い技術を生かして作る自社ブランドの鞄や革小物は、北海道をはじめ東京や大阪、名古屋にも店舗を展開している。





高い品質の牛革を素材に、職人の高い技術の手作業によって製品が生み出される様子を見学しながら、その端材の存在に一同驚かされる。牛のお腹側の皮は柔らかく伸び縮みしやすいため、安全基準の厳しい馬具づくりの世界においては安定性のある背中側の皮しか使わないのだそう。お腹側の皮の一部は、鞄のパーツなどにできるだけ活用するものの、その大半が廃棄扱いとされてしまう。本プロジェクトの視点から見るともったいないと思ってしまうが、品質と技術を追求したソメスサドルだからこそ成し得たものづくりであることも事実。しかし、廃棄物として処分するのではなく、いつかなにかに活用できたらという想いで、ソメスサドルは場所を割き、これらの端材を保管しており、その一部を紹介いただいた。


両社のファクトリーの視察を経て、倉本さんの”端材”への考え方も一気に変わっていったようだ。
「木も動物の皮も生き物で、そこから作るものだから最後まで使い切りたいけれど、どうしても出てしまう廃棄される部分がある。だからそれを何かに使えないだろうか、という思いで最初は工場を訪問しました。でもそこで、これは余ってしまっただけで、すごくいい材料に変わりないということに気づいたんです。こんないいものをもう、”端材”とは呼べないですね」
カンディハウス、ソメスサドルの両社も、倉本さんの視察を経てこのあらたなプロジェクトに期待を寄せる。
「長年の課題だった端材の解決に、ついに一歩を踏み出しました。素材とデザインと技術の3つの特徴をどう取り込むかということも考えていきたいですね」とカンディハウス 代表取締役社長の染谷哲義さん。
「天然素材の素晴らしさを伝え、有効に使い切りたいですね。フレッシュなアイデアや技術をもって、今回のプロジェクトのコンセプトとストーリーをどう打ち出していくかも大切だと思っています」とソメスサドル 代表取締役社長の染谷尚弘さん。
リサーチを経て、3社の目指す方向は定まった。この後プロダクトのコンセプト立案に向け、大量の木と革の端材を持ち帰り、倉本さんはアイデアを膨らませる作業へと移行する。端材だけれど、端材ではない、あたらしい価値を持つクラフトが生まれようとしている。

Jin Kuramoto
倉本 仁
1976年兵庫県生まれ。家電メーカーのインハウスデザイナーを経て、2008 年に東京目黒に『JIN KURAMOTO STUDIO』を開設。プロジェクトのコンセプトやストーリーを明快な造形表現で伝えるアプローチで家具、家電製品、アイウェアから自動車まで多彩なジャンルのデザイン開発に携わる。素材や材料を直に触りながら機能や構造の試行錯誤を繰り返す実践的な開発 プロセスを重視し、プロトタイピングが行われている自身の”スタジオ”は常にインスピレーションと発見に溢れている。 iF Design Award、グッドデザイン賞、Red Dot Design Awardなど受賞多数。2015~2017年グッドデザイン賞審査委員。
CondeHouse
カンディハウス
1968年の創業以来、国内有数の家具産地、北海道・旭川にて長く使える美しい生活の道具をつくる木製家具ブランド。国内外のデザイナーと共に妥協のない製品開発に取り組んでいる。北海道の自然と日本の文化に育まれた美意識をデザインとものづくりに生かし、国内はもとより世界各地に向けて発信している。
SOMES SADDLE
ソメスサドル
北海道砂川市に本社を構える馬具・皮革製品メーカー。1964年の創業以来、革を扱う技術の極致といわれる「鞍づくり」を中心に、鞄をはじめ革小物、インテリアなど様々な革製品づくりを続けている。競馬用鞍は多くのJRA騎手に支持されているほか、平成、令和の天皇即位に際しては馬車具を納入した。馬具づくりの技術を応用して作られる革製品は愛用者も多く、修理などアフターケアにも力を注いでいる。