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[Designer]

Jin Kuramoto × CondeHouse, SOMES SADDLE / Basket [Story2] 素材に触れながら溢れるデザインアイデア

JIN KURAMOTO STUDIOのデザイナー倉本仁さん、木製家具メーカーのカンディハウス、皮革製品、馬具用品メーカーのソメスサドルの三社ではじまったTOKYO CRAFT ROOMのプロジェクト。すでに培ってきた互いへの信頼や尊敬があったからこその迅速かつ的確なステップで、プロダクト化に向けたアイデアを披露する機会へと至った。三社が旭川に集まり、倉本さんによる初回のデザインプレゼンテーションがおこなわれた。

素材と向き合い繰り返した、実験的アプローチ

倉本さんが視察の際に両社から選び取り寄せた木と革の2つの端材は、形状をあらたにして東京から再び旭川に戻ってきた。それらはさまざまな色や形のオブジェとでもいうべきものか、ひとつとして同じものはない。カンディハウス本社の会議室にある大テーブルは、瞬く間に大量の試作品で埋め尽くされた。

「作るものを決めることなく、とにかく素材を手で触り、濡らしたり、引っ掻いたり、裏表を逆にしたりと、アイデアを形にしていきました。10より50、50より100というふうに量が質を生み、よいアクシデントが起こるんじゃないかと、さまざまな実験をおこないました」と、そこには、倉本さんが主宰するJIN KURAMOTO STUDIOがデザインをする上で大切にしているアプローチがある。

「手でスケッチしてイメージを掴んでいくということもありますが、素材の特性を活かしたいので、基本的にはできるだけ頭だけで勝手に考えないようにしています。それがうちの事務所で一番大事にしてること。素材を動かすというよりは、素材が動きたい形を見つけて、そこに構造の強度やバランスの美しさなど、 デザインが成立する瞬間を留めていくというようなアプローチをおこなっています」

JIN KURAMOTO STUDIOの壁の一部。プロジェクトに向けてさまざまなインスピレーションを貼り付け、巨大なイメージボードとなる。

すべて木と革を組み合わせたものだが、ユニークな形状通しを組み合わせたオブジェのようなもの、動物のフォルムのようなもの、道具のようなもの、中には革を縫い合わせたものもあり、三社でこの大量の試作品を囲み手で触りながら、会話が繰り広げられた。

「動物っぽいものなど、想定していたよりもゆるりとしたものができた気がします」と倉本さん。彼だけでなく、カンディハウス、ソメスサドルの両社にとっても思いもよらなかった発想だったようだ。機能を持たないアートピースのような方向性への同意が多く、中でも端材となった粗い木肌に沿って革を張ったものは、通常だと一番最初に捨てられる部分を使っているということからも、メーカー両社からの関心が高かった。最初のプレゼンテーションを終え、倉本さんはさまざまなフィードバックから気づきを得た。

「目先を変えてみると、端材の方が素材の素晴らしさをより伝えてくれるのではないだろうか。プロダクトとしては、美しい完璧なものよりも、すこし荒々しいものの方が向いているかもしれないなとも感じました。天然素材の持つ精神性のようなものの表現に、これからアジャストしていきたいと思います。たとえばiittalaの『バード バイ トイッカ』*のように、大人が愛でるオブジェやおもちゃのようなものも面白そう。あとは、素材とデザインに”技術”をどう表現するか、そしてTOKYO CRAFT ROOMというホテルの部屋に置くものとしてのアイデアについても、引き続き考えていきたいと思います」

*フィンランドのアーティスト、オイバ・トイッカがiittalaの職人と融合し、すべて手吹きで作られるガラスの鳥のオブジェ。ひとつひとつ異なる個性を持った同社の定番品。

カンディハウス、ソメスサドルの両代表からも関心が高かった試作品。通常は、一番最初に端材になる部分だという。

アートとプロダクトの間で表現するクラフト

試作品の制作とプレゼンテーションから数ヶ月。倉本さんはアイデアのアップデートと同時に、緻密なデザイン作業へと入っていた。「何を作るか」という課題に対して、2回目のプレゼンテーションでは「バスケット」というひとつのテーマに落とし込まれていたのだった。

「バスケット、実際ホテルではゴミ箱として使われるものを提案します。ホテルからもリクエストがあったものではあるのですが、これ以外にもストレージ、たとえばトレーとかティッシュボックスといった小物系も候補には上がってはいて。でもやはり”TOKYO CRAFT ROOMではゴミ箱にまでクラフツマンシップが込められている”というアイデアはとてもいいんじゃないかなと思ったんです」と倉本さん。

バスケットの初回デザイン。このデザインが最終版へとブラッシュアップされることになる。提供:JIN KURAMOTO STUDIO
オプションアイデア

シンプルなフォルムでありながら、非常に複雑な構造を持つこのバスケットのデザイン。円筒状の側部にはソメスサドルの革を、そして丸みを帯びた底部にはカンディハウスの木部を採用。さらにこの2つの部位は、それぞれ異なる種類のパーツを複数つなぎあわせてひとかたまりにしており、いわば立体的なパッチワークのような構造で、木と木、革と革、そして木と革の接合の精度も問われると思われる。

提供:JIN KURAMOTO STUDIO

「デザインする上でのリサーチについては大きくは2つ。ひとつはまず、TOKYO CRAFT ROOMがどういう空間で、どういう性格を持ち、どのような使われ方をしているかというリサーチ。そしてもうひとつは。作り手であるカンディハウスさん、ソメスサドルさんがどういうものづくりをしていて、どんなクオリティのものを作れるかということ。それは製造に対するチャレンジスピリッツみたいなところも含めてです。こういったリサーチを経ていくと、大体いろんなパズルのピースが見えてきて、それをどういう風にうまくはめていくかという作業になるんです。だから『これを作りたい』というよりは、全体的に浮かんでるピースや状況に自分のキャラクターを当てはめて、それらすべてをデザインで綺麗に縫いあげるみたいな。そういう作り方をいつもしているんです」

そう言って倉本さんはこのデザインに至るまでのリサーチについても振り返る。散りばめられたアイデアがたったひとつの形となるそのプロセスは、さまざまなパーツからならるまさにこのバスケットそのもののようにも思える。

着々とデザインが固まりつつあるなかで、このアイデアを実現させるための試作がはじまる。「一番最初の試作が上がってくるときが一番ドキドキするし、楽しい」という倉本さん。信頼を寄せる2つのメーカーの高いレベルでの試行錯誤がはじまろうとしている。

Story3へと続く

“Mono” Basket

“Mono” Basket

Size:
Φ25 × H33cm

Material:
北海道産ナラ、牛革

Price:
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