「“しずく”のようなフォルムを最大限表現するために、設置の際、鏡の小口を直接壁につかないようにしたかったんです。だからヘラ絞りの型からはずした後に小口を内側に曲げるという処理を追加しました。それが見事に実現しましたね」
TOKYO CRAFT ROOMに設置された鏡を目の前にそう語る熊野さん。彼の思惑どおり、鏡としての機能をもつそれは『bead(ビーズ)』と名付けられた。名前のとおり、壁に吸いついた一滴のしずくのオブジェのような存在感を放っている。
自社の技術をもってクライアントの要望通りの正確な表現を目指す北嶋絞製作所も、この最後の仕上げは一番の難関だったそう。
「型の無い部分を曲げる加工だったので難しかったですね。しかし最終的に、全体がとても滑らかでより鏡面がキレイに仕上げることができました」と同社の三橋さんも満足そうに語ってくれた。
「東京のものづくり」にフォーカスした今回のプロジェクトを改めて振り返る。当初から熊野さんが目指した「素材の持つ特性と技術をいかにシンプルに引出させるか」というテーマの実現と完成には、彼の言葉の通り、ヘラ絞りという技術への尊敬や追求を欠くことはできなかった。
「依頼する側は、メーカーの技術をリスペクトした上でお願いしなければならない。技術や素材を理解し協働していくことが、デザイナーとしては大切なことだと感じています」
そして、日本のメーカーが持つ技術の未来についても、デザイナーの視点から多様な可能性を感じている。
「北嶋絞製作所さんの精密な技術やそれに対するプライドに、日本人らしいクラフツマンシップを感じましたね。クライアントのリクエストを正確に表現すること。その姿勢に信頼と安心感を覚えました。北嶋さんの工場がある大田区をはじめ、墨田区など、東京には高い日本の技術を持つ小さな町工場が数多くあります。彼らの技術を未来に残し、その可能性をもっと広げるために、デザイナーができることがあると思っています。今回のような協働をおこなうことで、メーカー側が自社の技術に新たな可能性を感じたり、お互いにこの先の気づきがあるかもしれない。そういうところに新しいプロジェクトへ参加する醍醐味があると思っています。1回のプロジェクトで終わるわけではないんです」
「制作のうち全体の1/3を航空機器が占めていますが、それだけではなく、生活用品やオブジェまで様々なジャンルの製品に関わっていきたい」と志す北嶋絞製作所。その技術を未来へつないでいくためのデザイン。この『bead』をきっかけに、さらにクラフトのさまざまな価値が広がっていくことを願いたい。
Wataru Kumano
熊野 亘
プロダクトデザイナー。2001-08年にフィンランドへ留学、ヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)大学院を卒業後帰国、2008年よりJasper Morrison Tokyo Studio代表を務める傍ら、2011年にデザインオフィス” kumano “を設立し、木工デザインを中心に、国内外のインテリア、家具、プロダクトデザインやプロジェクトマネージメントを手掛けている。2021年より、武蔵野美術大学准教授に就任。
Kitajima Shibori Seisakusho
北嶋絞製作所
1947年創業した東京・大田区にある、各種金属のヘラ絞り部品加工を専門とする製作所。少数手作りから自動絞り、プレス成形による量産品にいたるまで、数多くの生産を手掛けている。特殊金属のヘラ絞り加工を得意とし、最先端の設備と70年余年積み重ねてきたノウハウをもって、人工衛星機器部品から航空機、半導体装置やモニュメントのような単品加工まで、大きさや種類も多岐にわたる。
“bead” Mirror
Size:
φ800mm
Material:
Stainless steel
Price:
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