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「SOFT COPY」展示風景

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あれもこれも、すべて写真と呼びたい。小山泰介と読み解く「SOFT COPY」

オフィスビルのエントランスに、印画紙でできたサッカーボールが置かれている。近くのビルにも、プリントが剥がれ落ちたような塊。日本橋浜町の街なかで開催中の企画展「“SOFT COPY” 物質としての写真、立ち上がる写真」は、写真に内在する「工芸性」を手がかりに、平面にとどまらない写真のあり方を紹介する展覧会だ。キュレーションを担当したTOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH(以下TPR)代表の写真家・小山泰介さんに、企画に込められた意図、どこまでが写真なのかという境界線、そしてまちの日常に作品を置くことについて聞いた。会期は10月25日(日)まで。

小山泰介(こやま・たいすけ)
写真家/TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH代表。東京出身・在住。独学で写真を学ぶ。生物学や自然環境について学んだ経験を背景に、実験的なアプローチによる写真作品や映像作品、インスタレーションを発表している。近年の展覧会に、個展「UNIVERSAL FLOWING」(THE FLOW、大阪、2024)、グループ展「NEW ANXIETIES – TPR in Seoul」など。


まちを歩いて出会う、写真らしくない写真

「SOFT COPY」展示風景
「SOFT COPY」展示風景

会場は、日本橋浜町トルナーレ1階の特設ギャラリーを核に、3つのオフィスビルのエントランス、HAMACHO HOTELのロビー階、旧ダントービルに点在している。すべて散歩の延長で歩いて回れる距離感だ。

特設ギャラリーと旧ダントービルは、改装を前に、一時的にスケルトン状態となった物件だ。次の姿へ移るまでのわずかな期間を、ギャラリーとしてまちに開いた。再開発の途中にある時間をまちの文化に還元する、安田不動産ならではの場のつくり方と言える。

特設ギャラリーでまず目を引くのは、入口のウィンドウ部分に吊られた余宮飛翔のポップな立体作品《No.2, From the series “Paraiso”》だ。写真を切り、貼り合わせ、布にプリントする手作業で平面と立体を行き来してきた余宮は、この立体で「触れられそうで触れられない距離」を手がかりに、イメージと身体のあいだの距離や、その場に立ち上がる気配を探っている。中へ進むと、Koichiro Kojimaの《Anesthetic Scape》も天井から吊られている。インクジェットプリントを透明なメディウムで木製パネルに転写し、シルクスクリーンを重ねた作品だ。別のガラス面には小川美陽の《MY PLANET》。走行中の車の窓に印画紙を貼って露光したフォトグラムで、あたかも車そのものがカメラになったかのようだ。壁には細倉真弓のシールが点在し、床には刺繍や熱処理を施した宇田川直寛の《またまた法》が広がる。

オフィスのエントランスでは、さらに「写真」から遠いものに出会う。島内秀幸のターポリンの塊《Filtration》や剥離したプリント《Skin of the Picture》、築山礁太の印画紙でつくったサッカーボール、トルナーレのオフィスエントランスに置かれた山本華の1.8メートル角の大判作品。旧ダントービルでは細倉と小川、さらに八木幣二郎の映像が室内に投影されている。

参加作家はほぼ全員が写真家、または写真を扱うアーティストだ。それでも、いわゆる「普通の写真」は一点もない。小山さんはそれこそが「SOFT COPY」展の面白さだと話す。

「カメラという機械にプリセットされた機能にはないやり方で写真を撮ったり考えたりする。写真家なんだけど、写真から逸脱して考えようとする。今回参加した作家たちは、みんなそれをやっているんです」

都市を写真で読み解く、TPRという集団

本展を手がけたTPRは、2018年に小山さんが中心となって立ち上げたアーティスト・コレクティブだ。再開発で姿を変えていく東京を写真と映像で記録することから始まり、これまでに75件を超えるプロジェクトを80名・組以上のアーティストと実施してきた。有楽町では、リサーチから生まれた作品を同じエリアの仮囲いやファサードに展示するなど、都市を撮る対象としてだけでなく、作品を見せる場としても扱ってきた。

2025年には、実験性を軸に写真史を読み直した『TPR Book #01: Experimental Photography in 200 Years — 実験的写真表現の200年』を刊行。都市に向けてきた視点と、写真というメディアを問い直す姿勢が、今回の「SOFT COPY」で交差している。次の姿を待つスケルトンの建物が会場になったことも、変わりゆく都市を見つめてきたTPRらしい。出展作家には、TPRのアシスタントディレクターを務める築山礁太と山本華も名を連ねる。

「ソフト」「コピー」に込められた意味

「SOFT COPY」展示風景
「SOFT COPY」展示風景

タイトルは、チームで複数の候補を出し合って決めた。出発点にあったのは「クラフト」の捉え方だ。手仕事や人間の痕跡を含みながら、物として立体的に立ち上がっていくもの。その見方で写真を考えたらどうなるか、というところから企画は始まった。

「写真は基本的に複製物なんですよね。オリジナルのデータやネガがあって、それをいろんなサイズや素材に転写したり、複製したりできる。その過程に作家の手つきが入って、作品が出来上がっていく」

SOFT COPYの「ソフト」は柔軟性を指している。撮った瞬間にイメージが固定され、ずっと変わらないものではなく、記録された後にさまざまな形へ広がっていくもの。それが小山さんたちの考える写真だ。

「立体にもなるし、平面にもなるし、映像にもなる。柔軟にコピーされて、広がっていくのが写真なんじゃないかと。今回クラフトというレンズを通してみたら、写真の中だけで考えるよりも見やすくなったな、という感覚がありました」

写真とクラフトを結びつけるこうした実践は、写真にとって原点回帰なのか。小山さんの答えは「スパイラル」だった。

「フィルムからデジタルになったら写真って本来なんだっけ、AIが出てきたら写真ってなんだっけと、写真は常にみんなが考え直そうとするメディアなんです。ただ、いま使える道具は50年前とまったく違う。原点回帰しながら、同時にアップデートしているんだと思います」

自宅に電気窯やキャンバスがある人は少ないのに、ほとんどの人が高性能なカメラを持っている。テクノロジーの影響をすぐに受け、それが表現に表れやすい。その不思議さも写真というメディアの面白さだという。

剥がれ落ちたプリントも、写真と呼んでみる

「SOFT COPY」展示風景

印画紙のサッカーボールや、ターポリンの塊。これも写真だと言える境界線はどこにあるのか。そう尋ねると、小山さんは「僕は全部写真だと言いたいんです」と笑った。

「AIで生成した画像も、ペリペリに剥がれ落ちた粉のようなプリントのクズも、写真じゃないとも言えるし、写真だとも言える存在だと思うんです。だから、まずはそれを一回写真だと呼んでみる。そこから何が考えられるか、というスタンスなんです」

剥がれた素材の質感に目を向けるだけでなく、「この状態のものが写真だとしたら、写真ってなんだっけ」と考えてみる。会場で感じる違和感は、その問いへの入口になっている。

島内秀幸には、剥がれたプリントを固め直した別の作品もあるという。プリントになり、崩れてクズになり、また固められる。フォーマットが変わっても、写真に由来するという来歴は残る。

「固体、液体、気体みたいなことで写真を考えていたことがあって。元素は一緒なんだけど、状態としてトランスフォームしていく。僕は写真をそういうものとして捉えているんだと思います」

豆腐とおからのような関係性なのか、と尋ねると「まさにそう」だという。同じ素材から生まれたものが、まったく違う姿で目の前に現れる。各作品は、ホテルなど展示空間での見え方や大きさも踏まえて選ばれてきた。

知恵の輪とスキャナーの「衝突」

「SOFT COPY」展示風景

小山さん自身も作家として出展している。《Clash》は、ハンドスキャナーと知恵の輪から生まれた作品だ。きっかけはコロナ禍、時間を持て余して知恵の輪に没頭したことだった。

「頭で考えながら、ここを回してひねったら抜けるかもとやっているんだけど、意図しない瞬間にスッと抜けちゃうことがあるんです。頭より先に体が抜いてしまう。抜けた後に、抜けたことに気づく。それがすごく面白くて」

知恵の輪を凹凸のままスキャンすると、押し当てたガラス面がガシャガシャと音を立てる。イメージを取り込もうとするスキャナーと、知恵の輪という物体同士の衝突。さらに、そのデータはアルミ板にUVインクで直接プリントされ、インクが支持体にぶつかってイメージになる。二重の「衝突」が作品名の由来だ。

「こう撮りたいと思うことと、撮れちゃったということ。予期せぬものが写ったり、スキャンされたりすることが、頭で考えたのと違う形で知恵の輪が抜ける体験に似ている気がしたんです」

偶然性に委ねながら、手と道具で物としての写真を立ち上げる。たしかに、非常に工芸的な作品でもある。

「これは何だろう」と立ち止まる場所

「SOFT COPY」展示風景

オフィスのエントランスは、仕事や打ち合わせに向かう人が足早に通り過ぎる場所だ。そこにあえて、写っているものを見るだけでは終わらない作品を置いた。

「写真をまちに展示する時、これは何だろうとまず立ち止まってもらうことが必要だと思っていて。パッと見て、どこかの風景の写真だ、で終わるんじゃなくて、この散り散りになった山は一体なんだろう、アプリで読み込んでみたら写真のプリントからできている、なんでだろう、どんな作品なんだろう、と。知りたいという気持ちをドライブさせるきっかけとして、多くの人の目に触れるオフィスのロビーにあることが大事でした」

スマートフォンで使えるオリジナルのデジタルガイドも用意されている。作品をカメラで撮影すると紹介ページが表示され、読み上げボタンから解説を音声で聞くこともできる。

「展覧会では、短いキャプションだけだったり、タイトルしかなかったりすることも多いです。一方、たくさんの情報があっても、アート鑑賞に慣れていないと作品を理解することも難しい。でも今回のスタイルなら、街歩きをしながら作品鑑賞するための最適な情報が手に入る。日本橋浜町を初めて訪れるという人にとっても、作品ガイドとマップがあることはすごく親切で、大事だと思います」

日本橋浜町のサイズ感

「SOFT COPY」展示風景
「SOFT COPY」展示風景

小山さんが何度も口にしたのは、日本橋浜町というエリアの程よいコンパクトさだった。

「散歩で歩くぐらいの範囲に、オフィスだけでなくホテルなど、それぞれ違うフォーマットのエントランスがあって、そこに作品がある。作品が集合する核となる特設ギャラリーがあって、旧ダントービルの映像もある。結果的にバランスのいいものができたと、自分でも思います」

大規模な写真フェスティバルやアートイベントは、会場自体が広がりすぎて一度に見きれなくなりつつある。それよりも、一角にギュッと集まっていることの強みのほうが今っぽい、と小山さんは言う。

残りの会期中に訪れる人には、せかせかと回るより、まちでゆっくり過ごすつもりで来てほしいという。おいしいコーヒーやスイーツ、人気のうどん店など。寄り道を楽しみながら展示を巡る。「カフェにも作品が一つあってもよかったかもしれない」とも話す。

これまでTPRが関わってきたエリアとも、できることがまったく違うという実感もあった。今回の企画展を経て、まちの中で「イメージを見る」ことに向き合う、よりストレートな写真展も日本橋浜町でやってみたくなったという。マイクロ規模で、お祭りのように盛り上げていくこと。今後はリサーチも含めて、日本橋浜町での活動を続けていきたいとも話してくれた。


展覧会情報

「SOFT COPY」は10月25日(日)まで開催中。観覧はすべて無料。主な会場は日本橋浜町トルナーレ1階 特設ギャラリー、HAMACHO HOTELロビー階、旧ダントービルで、周辺のオフィスエントランスにもサテライト会場が点在している。参加アーティストや開館時間などの詳細は、展覧会ページをご覧ください。

→ “SOFT COPY” 物質としての写真、立ち上がる写真 – curated by TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH